第21回「急勾配の敷地にグループホームを建てる」
今回は私の近作である認知症高齢者グループホーム2ユニット(地域交流スペース)+小規模多機能居宅介護事業所の機能を持つ「菅生のグループホーム」を紹介いたします。
この施設は川崎市内で傾斜地の多い宮前区に位置しています。高齢者施設を建設する際に土地の形状に問題を抱えている場合が多いのではないでしょうか。
この敷地も狭い上に高低差はなんと6メートルもある急勾配の敷地でした。さらに上空に電力会社の高圧電線があり高さ方向にも制約がある大変難しい敷地でした。

南西側外観
最上階(2階)のダークグレーの外壁部分は木造です。
下階(1階・地下1階)はRC造です。
【「菅生のグループホーム」建築概要】
所在地:神奈川県川崎市宮前区
構造:RC+木造
個室数:24室(小規模多機能宿泊室6 グループホーム2ユニット 合計18)
敷地面積:666.7㎡
建築面積:268.7㎡
延床面積:744.0㎡
外壁仕上げ:金属サイディング(2階)コンクリート打ち放し(1階・地下1階)
屋根仕上げ:ガルバリウム鋼板縦はぜ葺き、ウレタン塗膜防水
内装仕上げ:プラスターボードクロス貼り、コンクリート打ち放し
床仕上げ:フローリング
【急勾配な敷地に対する工夫】
勾配地に建物を建てる場合は勾配に対して(図A)施設を浮かべるか、(図B)土地に埋めて建てることになります。


(図A)の場合は空中に浮かせるために4階建ての高さを支持する構造が必要になり、さらに法的規制から高さ制限に抵触してしまい床面積が確保できず、建物の下の土地を効果に活用できません。
(図B)の場合は地面に埋まった面を居室としての利用する場合窓が開けられない制限があり、必要個室数を確保することができません。また、大規模な土地形質の変更は開発行為となり、様々な規制がかかり希望した規模の施設が建てられなくなる場合があります。
この施設図Bの場合となります。法的には地下1階、地上2階建となりますが、実際は全ての階に外気に開いた窓があります。開発行為にならずに(土地の形質の変更をせずに)狭い敷地に必要個室数を確保するために以下の工夫をしました。
1.ドライエリアを設ける
山側の地面下の個室に採光と換気を確保するためにドライエリア(空堀)を設けて個室の自然採光と換気を確保する。
2. 最上階を頭でっかちにする
最上階の下階より床面積が広い特殊な構成とすることで、傾斜地の魅力である眺望を最大限に生かすように利用頻度の高い地域交流スペースや小規模多機能居宅介護事業所を眺望テラスと合わせて最上階に配置する。
3. 混構造(木造+RC)とする
建物の重さをできるだけ軽くして基礎への負担を減らし、少しでもコストを抑えるために最上階(2階)を木造として軽くし、土を受け止める下階(1階・地下1階)をRC造とする「混構造」を採用する。
4.グループホームを下階に設ける
独立性の高いグループホームは静寂性の高い下階(1階、地下1階)に設ける。
5.駐車場を地下1階レベルに設ける
比較的に勾配の緩い最下階(地下1階)に車椅子利用者用駐車場を設け、専用のスロープと玄関を配置する。

【頭でっかちな2階】
次に各階の平面の説明をします。実はこの建物、勾配敷地の特徴として2階がエントランスがあるメインフロアーで、2階の床面積が1番広くなっています。つまり「頭でっかち」なのです。さらに最上階である2階のみ木造とすることで、建物の軽量化(基礎への負担減)を実現し、片流れの軽快な屋根を実現しています。
・メインエントランス
2階にメインエントランスと地域交流スペースと小規模多機能居宅介護事業所を最上階に置くことで、バリアフリーの観点から道路からの利便性を確保しています。
・1番いい場所にくつろぎの場を配置する
傾斜地の利点を生かした眺望と自然採光と換気に配慮した最も良い場所に位置に「地域交流スペース」と「小規模多機能の機能回復訓練(居間)」を配置しました。
・「足湯」があるテラス
「地域交流スペース」の展望テラスには「足湯」があります。眺望を楽しみながら足湯に浸かる贅沢が味わえます。地の利を生かした魅力的な設備です。
・温泉のような浴室
入浴を楽しんでもらいたいとの願いから、ユニットバスに無い木の温もりと、石調のタイルによる温泉のような浴室としました。
・TATAMIコーナー
機能回復訓練室には「TATAMIコーナー」と呼ぶ畳敷の小スペースを設け、素足で少人数がくつろげる居場所をつくりました。
・多機能キッチン
キッチンは地域交流スペースと小規模多機能の居間に挟まれる位置に設け、両方にサービスできるようにすることでスペースの効率化を考えました。

【ドライエリアのある1階・地下1階】
敷地北東の個室前にドライエリア「空堀」を設けることで、本来土に埋まって窓がとれない北東側の個室に採光や自然換気のための窓を設置できるようにしています。これによって中央廊下を挟んで左右に個室を設けることが可能となり、狭い敷地内に必要な部屋数を確保することができました。
・認知症高齢者グループホーム
1階と地下1階に認知症高齢者グループホームをそれぞれ1ユニット配置しています。必要スペースは基準最低限の広さとなっています。
・快適な居間
それぞれのユニットの居間に車椅子で出られるテラスを設置しています。気軽に眺望や四季折々の変化を楽しむことができます。
・TATAMIコーナー
居間には「TATAMIコーナー」と呼ぶ畳敷の小スペースを設けています。素足で少人数がくつろげる場所です。
・車椅子利用者駐車場からのアクセス
地下1階の勝手口から屋外の車椅子利用者専用の駐車場に行くことができます。法令で1台以上の身体障害者専用の駐車場の設置を求めていますが、傾斜地で開発行為にならないように駐車スペースを確保することは至難の業です。この施設ではわずかに残されていた緩勾配の最下部にかろうじて設置することができました。


【断面図 6Mの高低差】
先述した急勾配の土地に対する工夫を盛り込んだ施設の断面図です.
断面位置は平面図上にA・Bで示しました。
最上階における眺望に配慮した片流れの屋根形状、山側への個室の配置を可能にしたドライエリアの状況がご理解いただけることと思います。


【完成写真】

2階メインエントランス側外観
道路からレベル差があるため、階段とスロープがあります。

地域交流スペース
南西側の眺望による開放感を与えるために天井に片流れの勾配をつけています。
左の小窓はキッチンカウンターです。右奥に「足湯」のテラスに出られます。



テラス・足湯
勾配敷地ならではの眺望が楽しめる設備です。
施設に唯一無二の魅力を与えています。

小規模多機能・機能回復訓練室
南西側の眺望に開いた開放感を与えるために天井に片流れの勾配をつけています。
奥に「TATAMIコーナー」が見えます。少人数でくつろげる場所です。

機械浴室
施設的な雰囲気を排除して利用者に温泉のような雰囲気を楽しんでもらうために、
大きな窓を開け、木や石調タイルを使い、ユニットバスに無い空間にしています。

グループホーム居間・TATAMIコーナー
少人数でくつろげる畳敷の小部屋「TATAMIコーナー」があります。
個室以外に自分の「居場所」が選択できるようにしています。

個室
壁1面に各室色の違うテーマカラーを与えています。
これにより「自分の部屋」が視認できるようにしています。
窓はできるだけ大きく開くことで、「病室的」で閉鎖的になりがちな個室に
太陽の光や風といった自然の恩恵を最大限に取り込めるようにしています。
以上が最新作の説明です。
日本は山国です。交通の便の良い平らな敷地は郊外に行くほど少なくなり、条件の良い土地は値段が高くなります。一方このような勾配が急な敷地は建設に際して造成や基礎構造、施工手間などの建設コストが上がる要因が多くなります。ですが高齢者施設が求められている場所は都合良く安くて平らな場所とは限りません。建築家のテクニカルな努力でローコストを実現するにしても限界があります。国には土地のハンデに対する補助金などの柔軟な対策が求められていると思います。
日本語には「地の利を活かす」という言葉があります。私の設計した施設では過去に紹介した「フロイデ彦島」など高低差の激しい敷地に挑戦して成功した実績がありますが、この施設も眺望や光や風といった自然の恩恵を活かす工夫によって「この施設ならでは」といった魅力が作れたと思います。
いかがでしたでしょうか。
以上で今回の説明を終わります。次回のテーマはまだ決まっていませんが、また様々な事例をご紹介できればと思います。お楽しみに。
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