美しい高齢者施設をつくる 第12回「 保育園が完成しました。厳しい敷地条件の克服方法」

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川崎市溝ノ口駅から徒歩数分にある「あぷりこっと保育園 エミタス久本」です。
「幼老複合施設」というものをご存知でしょうか。保育園と高齢者施設一つ屋根の下に複合した施設のことです。メリットは子どもと高齢者が日常的に交流することで高齢者は表情が豊かになって元気になり、子どもは核家族化で疎遠となった高齢者とのふれあいを通して積極性が身につくなどの教育効果が期待できます。
高齢者と幼児の双方に大変メリットがあることから各地に増えている施設形態ですが・・・・・。
しかし土地が狭い大都市近郊では保育園と高齢者施設を複合化した大規模施設を民間で建設することはなかなか難しいかもしれません。
この保育園のオーナーは既に保育園複合シェアハウスといったユニークな施設を運営しており、今後は地域に集中してサービス付き高齢者向け住宅やデイサービス、放課後児童クラブ、こども食堂(非収益)、無料塾(非収益)を整備し、幼児から高齢者まで(小中高生も含めて)利用できる福祉施設を溝ノ口周辺に整備することで生まれ育った地域に恩返しをするという夢を持っています。
一つの建物に複合化するのではなく、単体施設を地域に点在させてネットワークをつくることを目指しているのです。また、一般的な幼児と高齢者のコミュニケーションだけではなく、中間層である小中高の子供達の役割を持った居場所「ザ・サード・プレイス」も念頭に入れています。

この保育園はとんでもない敷地条件で、「狭い・変形・高低差」といった大都市に近い丘陵地が抱える三重苦を克服する必要がありました。
これら三重苦は高齢者施設の建設でも問題となりますが、保育園はバリアフリー、生活空間、職員所室といった高齢者施設と共通した機能や許認可保育園としての条件を満たす必要がありました。
私が三重苦を解決したコンセプトを以下にまとめます。
◯敷地の三重苦(狭い・変形・高低差)が課題でした。
敷地は北向きの公園に面した斜面に位置していて、許認可保育園として園庭が取れない狭小地でした。さらに敷地は南北で8メートルの高低差があり、大変複雑な変形地でした。さらに10Mの高さ制限や隣接する擁壁の基礎が大きな障害でした。

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 ◯コンセプト1:伝統町家に学ぶ配置構成=「通り庭のある保育園」
伝統的な商家では土間(通り庭)に面して部屋が連なり中央に採光換気の吹抜けがあります。通り庭は単なる通路ではなく、様々な活動が行われる場所です。これは間口が狭い敷地における生活の知恵です。

                                                          伝統的商家の平面図

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今回この活動的な通路としての「通り庭」を保育園に設けました。

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 ◯コンセプト2:傾斜地を効果的に利用した断面構成
緑に面した高低差を効果的に利用して、最下階に障害者送迎車両庫と車椅子利用者様(EV利用)勝手口を設け、に森の自然を感じる屋上やテラスを配置しました。

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 ◯コンセプト3:フレキシブルに使える保育室
狭さを克服するために、本来部屋の隅に配置する水回り(トイレ・手洗い)を採光と換気を促す装置として部屋の中心に配置しました。行灯のように天井から木漏れ日と風が抜けます。また、可動家具で定員の変化や活動に合わせて自由に仕切ることができます。
少ない保育士が園児を見守る保育園ならではのプランですが、高齢者施設においても食事や機能回復訓練などフレキシブルに簡単に可変できる仕組みは有効です。

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 いかがでしたでしょうか。
高齢者施設においても都市近郊における不利な敷地条件の問題があり、敷地を見て頭を悩ませる場面が多いことと思います。
この計画は試行錯誤の連続でした。10Mの高さ制限や隣接する擁壁をかわすために上層階を擁壁上に突き出すなどの細かい工夫もしています。
以上のような様々な工夫をすることで不利な敷地条件であっても魅力的な施設が実現できることを知っていただければ幸いです。

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