美しい高齢者施設 建築家 吉田明弘

美しい高齢者施設をつくる 第17回「サービス付き高齢者向け住宅をつくる 基本設計編」

新しいシリーズとして最近できたサービス付き高齢者住宅の設計から竣工までを説明します。
今回は基本設計編です。どうぞよろしくお願いたします。

今回から私の近作であるービス付き高齢者向け住宅「戸神ホームズ」を使って、施設計画が基本設計から竣工に至る過程を複数回に分けて紹介いたします。次第に建築が形になっていく過程をお楽しみ下さい。まずは「基本設計編」として、敷地の状況からメインコンセプトの立案及びゾーンニング計画までを説明します。編高齢者施設の入居をお考えの方、建設をお考えの方の参考になれば幸いです

戸神ホームズ:南より空撮

【敷地】
 敷地は千葉県印西市千葉ニュータウン駅郊外の市街化調整区域内にあります。写真のように南側は前面道路となる大通り(写真手前)に面し、北側に鬱蒼とした森(写真奥)が隣接した敷地です。敷地東側(写真右側)に同じオーナーが経営するベーカリーがあり、施設との連携を望まれていました。西側(写真左側)は後に同じオーナーが児童図書館としてリニューアルする住宅が隣接しています。周辺は広い公園の緑が大変多く、都市の喧騒から離れて自然と共に生活する終の住処として理想的な環境です。
 敷地は市街化調整区域内にあります。市街化調整区域は都市計画法で自治体が定めた「市街化を抑制すべき区域」で、農地や自然を残すことを目的としているため、特別に許可を得ない限り原則建物を建てられません。がこの施設は条例による緩和の適用を受けて建設が可能となりました。

○敷地全景 北側に鬱蒼とした森がある

【施主からの要望】
 オーナーが理想とするイメージを共有するために、最近建設されたリゾートホテル等の施設を見学に行くなどして話し合いを重ね、以下のご要望を盛り込んで設計を進めることになりました。

・1つの住戸は夫婦で入居可能な50㎡程度の面積とし、20戸(定員40名)とする。
・現地に既にあるオーナーが運営するベーカリーと計画予定であった児童図書館と連携することで高齢者の理想郷のような環境を作る。
・ペット(犬)を連れた入居を可能にする。
・北側の森の緑を最大限に取り込み、四季折々の変化を楽しめる施設とする。
・ホテル経営者であるオーナーの知見を活かした高級感溢れるラグジュアリーリゾートのようなデザインを目指す。
・大浴場、ラウンジ、パーティーが開けるレストランのような場所、フィットネスジム、麻雀部屋など、共用部分が充実した施設とする。

【メインコンセプトの決定】
 この施設では設計当初まず具体的な形を検討する前にご要望を満たした上で以下の3つのコンセプトを提案しました。

1. 自然の恵みを感じる暮らし。
 敷地は成田空港や海へのアクセスが良く、周辺にはゴルフ場や自然公園が点在し、高い建物の無い郊外に位置しています。この環境資産を最大現に生かすため、太陽の光と風を取り込むことで自然の恩恵を最大限に受けられる施設づくりを行い、ペットとの暮らし、家庭菜園、隣接するパン店との連携など、自然の恩恵を感じる終の住処として魅力的な環境をつくります。

◯北側の森を室内に取り込んだ自然の恵みを感じる暮らし。

2. リゾートライフを楽しむ終の住処。
 モダンでありながら自然の素材を生かした「和」が感じられるデザインとし、森を感じるラウンジや食堂、図書室、大浴場、フィットネスジムがあるリゾートホテルのようなラグジュアリー空間を作ります。

◯リゾートライフを楽しむ終の住処。

3. 長く住める「可変性」をもった住戸
 介護度が進む中で施設に移動するなど居住環境が変わることは高齢者にとって大変な苦痛です。介護サービスを利用することで長く安心して住んでいただくために、「日常生活動作」が低下してもQOL「生活の質」の低下を招ねかずに済むように住戸に可変性を与えます。

◯自由にプラン変更できる「可変性」の導入

【ゾーンニング計画】
 建物の設計初期ではまずゾーンニング計画を行います。部屋の配置などを検討しますが、この時点では細かい平面はまだ確定していません。ゾーンニング検討ではメインコンセプト実現のため以下の3点の重要なアイデアが盛り込まれました。

1.施設の中心となるシンボルゾーン
 施設の中央に玄関から北側の森に抜ける吹き抜けの大空間を配置します。ここはエントランスとラウンジからなる施設の中心であり、全ての動線の起点となる空間です。また、エレベーター(階段)を施設の中心としてモノリスのように象徴的に扱う考えが生まれました。

2.東西に両翼を持つH型の平面形状
 シンボルゾーンを中心に南北に2棟に挟まれた中庭を持つ東西翼からなる住戸ゾーンを配置し、全体としてH型の平面形状としました。
・1階東翼に共用ゾーンを配置して南北に開く。
・1階西翼に住戸ゾーンを配置して静かな場所を作る。
・低層2階建てとすることで景観として威圧感の無い建築ボリュームとし、「土に近い暮らし」を実現する。また、基礎にかかるコストを低減する。

◯ゾーンニング計画図

3.光と風を導く「中庭」
 東西両翼では、南北の住戸に挟まれた中庭を設けることで建物全体に光と風行き渡り、四季折々の変化が楽しめるようにしました。また、建物のメイン動線として、中庭に面する屋外通路をスパイン(背骨)として機能させ、「路地」として日常生活の中で出会いから始まるコミュニケーションが生まれる場所にしました。また、2階住戸へは中庭上に「橋」を渡ってアプローチするアイデアが盛り込まれました。

◯住戸部分断面コンセプト図

【コンセプト模型】
 この時点で簡単な模型を作成します。毎回最低でも5案程度作成しますが全は紹介しきれ無いので、実施案に近い模型をここでは載せています。この時点はかなりラフな模型です。模型を見せると毎回オーナーには大変喜んでいただけます。模型は見る人の自由な視点で様々な角度から建物をイメージしてもらうことができます。基本設計のスタディーの段階では模型が主役です。模型は簡単に壊せるのでアイデアの更新が簡単に可能です。 
 コンピュータグラフィックス(CG)のような表現は設計終盤で作成します。CGのようなリアルな表現は初期段階では極力避けるようにしています。理由はイメージが頭の中で固定観念化してしまい、以降の更なるデザイン進化にとって障害となるからです。

基本設計初期段階のスタディー模型
◯基本設計初期段階のスタディー模型

今回はここまでです。次回は「実施設計編」として基本設計が実施に反映されていく過程を紹介させていただきます。お楽しみに。

吉田明弘プロフィール

yoshida

建築家 一級建築士
1965年東京都生まれ
1990年日本大学工学部建築学科卒業
アプル総合計画事務所に入所(最終肩書 取締役副所長 管理建築士)

(お問い合せ・連絡先)
http://yoshida-dw.com/

会社概要
社名:株式会社ヨシダデザインワークショップ
Akihiro Yoshida design workshop CO., LTD.
代表取締役:吉田明弘
資本金:900万円
会社設立:平成24年3月
一級建築士事務所登録:東京都知事登録第57739号
業務内容:建築設計・監理/インテリア設計・監理/
都市計画/工業デザイン/景観デザイン

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