第20回「サービス付き高齢者向け住宅をつくる 模型・CGパース編」
今回は次回に引き続き私の近作であるサービス付き高齢者向け住宅「戸神ホームズ」の実施設計 模型・パース編を紹介いたします。
設計者の世界では実施設計とは「基本設計に基づき、建築を実際に施工するための設計図書(設計図、仕様書、各種計算書、工事予算書など)を、作成する業務」のことを指します。これはとても専門的な内容ですので、今回紹介する記事は基本設計のコンセプトがどのように建物のデザインとして最終的に決定されたか、という視点でご覧いただければと思います。高齢者施設の入居をお考えの方、建設をお考えの方の参考になれば幸いです。
【建築模型とは】
最近はCG(コンピューターグラフィック)技術が発達し、設計段階でお客様に見ていただくことが多くなりました。オリンピックなどの際にニュースなどでメインスタジアムの完成予想パースなどご覧になった方も多かったことと思います。ですがCGが発達した現在でも建築家の多くは模型の作成をデザインの重要な表現方法と考えています。
私は設計の中間段階までCGを使うことはしません。主に「模型」でスタディやプレゼンテーションをします。それには理由があります。
理由1 デザインの思考過程ですぐにその場で自由に修正できる。
デザインは最初から決まるものではありません。様々なアイデアが生まれては消え、その度に確認をする作業を進めていきます。初期模型は「スタディ模型」と言ってアイデアをとりあえず形にしたものです。このような模型は粘土みたいに手軽に作り変えることができます。
理由2 同時に複数の人が立体を通して共有できる。
模型は創造行為をダイレクトに立体に置き換えることが可能です。自ら手に取り自由自在に視点を動かすことができ、その場の全員が同時に共有できるので模型を取り囲んで「あーだ、こーだ」と議論ができるのです。
理由3 建物の形状を設計段階ごとに確認ができる。
設計が進むにつれて1/200、1/100から1/50、1/30など大きな縮尺の精密な模型を制作します。その際に以前作った模型と比べながらデザインを進化させていきます。
CGパースは2次元なので実態がありません。初期段階でCGパースを作ってしまうとそれに満足してしまい、創造的行為が止まってしまいます。
【基本設計1/200ボリューム模型 3案】
基本設計段階では大枠でのボリュームやプランやデザインコンセプトを確認します。コラム第17回で基本設計の模型を掲載しましたが、実は複数の案を並行して検討を進めます。以下はほんの一部ですが様々な形状を試した3案です。
○南北幅を最小限にするため東西ウイング中央に狭い中庭を設けた案
○南北の幅を最小限にしつつ、採光に配慮して住戸に角度を与えた案
○南北の住戸との間に最大限の中庭を設けた案。最終的にはこの案に決定され実施設計案となりました。
【基本設計1/200屋根形状スタディー模型 3案】
下は屋根の検討模型です。周囲との景観を考慮して3案提案をしています。
○左から片流れ一部折り上げ屋根、切妻南北勾配、切妻東西勾配の各案
【基本設計完了時1/100ボリューム模型】
基本設計最終段階の模型です。屋根は最終的にはコストのかからない陸屋根(平屋根)となりました。内部の各階の平面の状況がわかるように作り込まれています。この段階での仕上げのイメージも色紙が貼られています。
【実施設計1/50模型】
最後に実施設計時に作成した模型を紹介します。かなり大きな模型で1/50で作成し、階段や家具なども表現しています。空間自体を見る模型ですので素材感を入れると主観が入ってしまいますので、この段階では色は白で作っています。
【実施設計段階でのCGパース】
デザインが決まった設計の最終段階でCGパースを作成します。仕上げの素材感や照明の具合も表現します。パースは1番見せたい部分だけを作成するので模型のようにあらゆる場面を見ることはできません。
いかがでしたでしょうか。
以上で今回の説明を終わります。サービス付き高齢者向け住宅「戸神ホームズ」の紹介は今回で終わりです。次回のテーマはまだ決まっていませんが、様々な事例をご紹介できればと思います。お楽しみに。
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